寝物語

当時を振り返ると

北関東源流会の発足は、1988年の春である。

P1010063.JPG源流で大岩魚を釣りたい。賛同した仲間を集い、本格的な源流釣り集団を立ち上げた。(会員数僅かに5名)
当初は、飯豊・朝日をベースに大岩魚が釣れると聞けば、所かまわず何処の渓にでも足を運んでいた。
 春先には雪の固まりが流れる「雪しろ」の中、淵を泳いで凍り付いた。台風で増水した濁流の中でもザイルで身体をつなぎ、喜んで竿をだした。訪れた渓々の状況がどんなに過酷で困難を極めても、自分達の力の限界まで釣りを楽しんだ。1年を通して頭の中は、「大岩魚」一色に染まっていた。冬になれば地図を広げて、来期の溯行計画を立てる。
とりつかれているかのように渓に通っていたあの頃。振り返れば、若気の至りとは言え無謀な行動もあったかもしれない。
しかし、この熱い思いと行動力があったからこそ今があるのだと確信している。

源流のイワナ釣りとは

我々が思うイワナ釣りとは、単なる魚を釣る行為だけではない。遥か源流の魚止めを目指し、滝を登り激流を渡渉しながら淵々を泳いで突破していく。
 また、時には渓の中で焚火を囲みキャンプを張る。このような行動のプロセスが楽しく達成感を得られるのだ。
渓の厳しい状況の中、仲間と共に困難を乗り越え源流に潜む大イワナを釣る。これが源流つりのロマンである。


天然イワナとの共存を考える

2013年の夏

日本列島を襲った大雨は、各地に観測史上最大の豪雨をもたらした。我々はイワナの棲息が心配になり、渓へと調査に向かった。
そこで目にした光景は、想像を遥かに超える凄まじい増水の爪痕であった。数十トンもあろうかと思う巨石が流され、淵々は源流部まで土砂で埋まってしまった。さらに源流域まで、魚影はまったく確認できなかった。このような状況を目の当たりにした我々は、言葉を失った。「残念!」
 異常気象による大雨の影響で山渓は荒れ果て源流の岩魚が減少、いや絶滅の危機にさらされているのが現状であろう。
本来であれば自然の持つ力を信じ、長い時間をかけて見守って行くことが望ましいと考えるのだが。この状況では、イワナは絶滅してしまい、先祖代々伝わってきた「日本の渓流つり文化」の火が消えてしまう可能性もある。自然との共存の道を選ぶのであれば人の手によって保全が必要となる。我々は、自然に任せるべきか保全するべきか判断できずにいた。
 しかし、渓の現状を振り返れば保全の道を選択せざるおえない状況であった。保全と一言で言うのは簡単だが、我々が出来る保全とは何かを考えた。
そこでイワナの源頭放流を続けていた一人の人物の考え方を参考にすることとした。
彼は、沢にイワナを甦らせる為に、三〇年に渡って「保全増殖活動」を継続していたのである。一部抜粋ではあるが、彼の活動の理念を紹介したい。


在来天然イワナの自然を守って三十年     新潟県水原町 五十嵐新三

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在来イワナ保護活動の理念

私の住んでいる新潟県中下越の地域の山にはニッコウイワナが生息しております。
今から35年前の昭和41年42年、連続して1日の雨量500ミリを越す豪雨があり山は土石流となって崩れ落ちました。
川の最上流部の水温の低い部分に住み、多少の出水では力のある成魚が、又異常渇水では稚魚で持ちこたえ生き継ぐ生命力のあるイワナではありますが、数百年に一度の大災害には勝つ事が出来ず、大部分の沢のイワナは姿を消してしまいました。
翌年からは災害復旧の護岸・砂防の大工事が始まり、落ちたイワナは永久に帰れなくなったのです。ですから5年経った昭和47年でもイワナは山に蘇る
様子は無かったのであります。
河川や沢の構造が自然の状態であればこそ、そのように自然の大災害にも負けず生き継ぐイワナであります。しかし、現代は災害防止の為に河川の構造に人の手が加わり、イワナの自然復元力を奪ってしまったのです。
昭和30年代以前はまだまだ自然の河川構造でありましたが、昭和40年代より全国の河川は一気に人工の手が加えられ、現在は自然の河川は殆ど無いというくらいになったのであります。人がイワナという魚の自然環境を奪ってしまったのです。
私たち人間は自然の恵み無くては生きる事が出来ません。自然があればこそ生きられる人間であります。ですから自然を利用し自然から物を奪い取るだけで無く、自然に奉仕する義務もあるのだと思われます。では個人として何が出来るのか、私がやれる事、個人の力でも大きい仕事の出来る事、それは、在
来の天然イワナを守るという事、自然復元を不可能にした沢へその土地在来のイワナを移し植えてやるという仕事でした。


五十嵐新三殿、貴方の志と実績に感謝申し上げます。ありがとうございました。
第3回日本水大賞 奨励賞
彼の記事は今でも下記のPDFで詳細を知る事が出来る。
http://www.japanriver.or.jp/taisyo/oubo_jyusyou/jyusyou_katudou/no3/no3_pdf/igarashi.pdf

この記事を転載するにあたり、管理者の連絡先を知る事が出来ず無断転載になってしまった事をお詫び申し上げます。

新たな旅の始まり

我々は、飯豊・朝日の渓に大イワナの復活を目指し、五十嵐新三氏の理念の下、自然との共存を第一に考え、出来るかぎりの保全活動に従事して行くことを誓う。
仲間の情熱と結束がある限り「大イワナの楽園を求めて」旅は続く。
男たちは新たな風に乗り源流へ。まだ見ぬ伝説の大岩魚を求めて