北源会25周年企画第一弾

第1話 実川の夏

文章 千葉 憲一

都合に応じた計画

北関東源流会恒例の夏の実川の日程が決まったのが8月に入ってからでした。
8月のお盆の時期は、みなそれぞれに予定などがあり、全員の日程を合わすのが困難だったのでしょう。
そして、今回は、11日から15日の各人それぞれの都合の良い時間を目一杯楽しもうと言う事になりました。
私自身の今回の日程は、明さんと康弘さんと同じ11日の夜に出発し、14日の午前中に山を降りる日程を組みました。
ただ、夏の実川では蚊やアブの大群に襲われて、顔が来た時とは別人のようになってしまう人がいると聞いているので、対策はしっかりとしなければと思っています。

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準備にワクワク!

そして、前日の夜が寝付けないくらい楽しみにしていた11日の朝はやってきました。気持ちの良い夏空が新潟の方まで広がっているように見えます。春の凛とした山の風景が、今はどう変わっているのだろう。
午後からは、山を想像しながら、虫から顔や首を守る帽子と虫よけのリングを用意し、着替えやカッパ、寝袋など山に持っていくものを一通りザックに詰め込みました。

先輩達の武勇伝

待ち合わせの午後22時に康弘さん、明さんと私が集まりました。
私もそうなのでしょうけれど、二人の顔は、目を輝かせ気合いが漲っていました。
3人で食糧の買い出しを近くのスーパーで済ませ、いざ、実川に出発です。
実川に向かう車中では、私の知らない山の話しなど楽しくて為になることをいろいろ聞く事ができ、あっという間に実川へ到着したように感じました。

害虫対策完了

実川の山小屋へ到着は、12日の午前2時でした。車から降りる時は、蚊対策のために暑い夏ではあるけれどカッパを着てから降ります。これは、先輩達からのアドバイスです。
過去によっぽど酷い目に遭ったのだろうなと思いながら、私も蚊に刺されやすい体質なので、しっかりと上下のカッパを着こんで顔はネットで覆ってから車を降りました。
 山小屋に荷物を運び入れて、掃除と蚊取り線香を焚きながら明日に備えて就寝しました。
普段と違う、たくさんの命の混ざった香りに興奮しているために眠れないと思っていたら、全員が寝坊し起きたら9時前になっていました。大慌てで、朝食を食べて、いざ遡行開始です。

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渇水の中流部

中流部を一日かけて、釣りをしながら楽しもうと出発したのです。渓に降りる沢の入り口に到着、おおよそ70mくらい沢を下ります。
渓に降りると思いのほか水が少ない!おまけに魚影もさっぱり見えません。その代わり、アブの大群だけにはしっかりと襲われ、夏山の洗礼を受けたようでした。
水が少ないので、遡行は楽でしたが、さっぱり釣れないのは寂しいものです。何といってもここは実川なのですから。あの圧倒的な水量とそこを泳ぐ岩魚が目に焼きついているのに・・・かっ渇水!
また、川で泳ぐのは気持ちの良いものですが、水から出ると途端にアブの大群に取り囲まれ、あちこちを噛まれるのがこの時期の辛いところです。
そんな状況にもめげずに先に進んで行くと、辺りは素晴らしい渓相になってきました。
 明さんと康弘さんが「ここの中流部も春先は水量が多く超過酷なんだよ」と教えてくれました。渇水でもさすがに圧倒される景色が広がります。
どんどん先に進んで行く中で明さんがいろいろと説明してくれました。なんども遡行しているだけあってよく把握しています。

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直径30メートル以上もある大淵に到着

康弘さんがすかさず竿を出す。やっぱり釣れない。明さんがもうやめにしてここで泳ごうと飛び込んでいった。
「気持ちいい〜」と叫んでいます。
しばらく泳ぎを満喫した後、明さんがいっぷくしながら「この状況では、この先も期待できないな!」と言い作戦を練り直そうと一度山小屋に戻る事になりました。

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第二班と合流

山小屋に戻る前に上ダムを覗いてみるとフル回転で稼働しているようでした。
ダムで水を引いてしまうため、ダム下は渇水状態になります。ダム上じゃないと厳しいかなと思えるような水の少なさです。
それでも、どこかのプールには岩魚がいるのだろうけどと思いながら山小屋へ戻ります。
戻る途中で、写真で見た事のある顔の人が笑顔で近づいてきました。それは、相場さんと木村さん、秋山さんの第二班の3人でした。予定より早く来たみたいです。
山小屋で合流して、遅い昼食をビールを飲みながらみんなで食べました。
相場さん、木村さん、秋山さんが来て6人になった山小屋で、山で経験した腹を抱えて笑ってしまう話しや、川での怖かった体験などを含めた楽しい話しました。
木村さんの挽きたてのコーヒーを飲みながら過ごす時間の楽しさ。
山っていいですね。贅沢な時間を過ごしているなと感じました。

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二回戦の夕まずめへ

そうこうしているうちに陽も傾いてきました。木村さんが岩魚を食べたいと言っています。
ぼく自身も夕まずめの川を見てみたいし、釣ってみたいと思い、明さんと康弘さんと私の先発隊が今夜のおかずを釣りに再度出発です。
今回は、明さんと私が、釣り上がり、康弘さんが釣り下がっておかずを釣る作戦です。
最初は、午前中と同じで渇水の為、釣れませんでしたが、ちょっとした淵で明さんが30cm弱くらいの岩魚を一匹釣りあげました。やっぱり岩魚の顔をみると嬉しいものです。
そのまま釣り上がっていくと大きな淵が現れました。
ライズはありませんでしたが、ここには、絶対に岩魚がいると確信できるような淵でした。明さんが、最初にミミズを流し込みました。あっという間に竿がしなり岩魚を釣りあげました。会心の笑みが溢れていました。
さて、次は私です。春はあんなにあっさりと釣れたのに今回はまだ当りもありません。
静かに投げ込み引いてくると、初めての当り。
今日初めての一匹は、毎度毎度同じように何故にこんなにも嬉しいものなのでしょう。30cmを越える岩魚が顔を出しました。今日一日の疲れが吹っ飛んだように感じました。
明さんが「もういいね、戻ろう」と言いながらあっと言う間に崖を登って行きました。
 私も、竿をしまい登ってゆくと明さんの姿がありません。何処へ行ってしまったのか不安になっているとピーと笛の音が聞こえました。どうやら私が登る所を間違えたようです。
 明さんが「千葉ちゃんこっちこっち」と叫んでいます。「ああー良かった」

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山の宴会は楽しい

山小屋へ戻ると相場さんが焚き火を起して待っていてくれました。
翌日の朝食用のカレーも夕飯と一緒に準備しながら、宴会に突入です。
私以外は、みんな山での経験が豊富な人ばかりですので、腹を抱えて笑うような話も為になるなと感じます。
世代がいろいろだけど、それぞれが自分の楽しみたいように楽しめる山っていいなぁと改めて感じました。眠くなった人から、ポツポツと寝袋に入って就寝していきました。明日はいよいよ、実川の魚止めを目指しての遡行です。
夜中には、栄司さんと相馬さんそして今年入会した丹羽さんも来る予定です。
楽しいなぁと思いながら就寝です。ところが、蚊の襲撃に遭ってあまり眠れません。
昨晩は、蚊の存在を感じることはなかったのですが、どこからかこの小屋に集結してきたようです。そうこうしているうちに栄司さん相馬さん、丹羽さんの3人が午前3時に到着です。再会を祝ってまた乾杯!やっぱり仲間が増えると楽しさが倍増します。
ついつい飲み過ぎてしまいます。明日の魚止めに備えて早々に休みました。

大切な判断力

13日は、実川魚止めを目指しての遡行です。アブも標高が高くなれば、数は少なくなるらしいので快適に楽しめるかなと思っているのですが、どうなるかは行ってみなければわかりません。当日は、足の調子の良くない相場さんは、留守番。8人で出発です。
けもの道のような登山道を抜けて、沢へ降りました。
 この時点で、木村さんと秋山さんは、魚止めを目指した遡行を断念し、6人で魚止めを目指しました。上流部に行く道は、かなり体力を消耗させますし、いつもながらペースが速いのです。
沢では、無理は禁物ですので自分の体の調子を見て、今回は難しそうだぞと思ったら行かない判断も大事なのだと思いました。何度も山に入っているからこそ出来る判断です。さすがです。

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これで減水気味!

川は減水ぎみとの事でしたが、ダム下とはだいぶ違い、私にとっては水量がだいぶあるなと感じました。 
深みの流れのある所では、足が持って行かれ思った以上に大変だぞと感じました。沢を遡行してしばらく行くと大きなとろ場が出てきました。釣ってみようとなり、相馬さんが竿を出すとすぐに当り。相馬さんが会心の笑みを浮かべています。次に丹羽さんが手前を流すと、またまたいいサイズの岩魚が釣れました。さらに康弘さんにも当りです。

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高巻きの恐怖

その後、ゴリラ岩の辺りやL字淵などでも釣りを楽しみながら遡行して行きました。
 L字淵を抜けるとき高巻きとへつりがセットでついてくるのですが、皆なれているのでスムーズにクリアーしていきます。私は途中で行き場を失い怖くなって淵に飛び込みました。
その後、「状況をよく見て行動するように」と明さんから叱られました。
 上流部は、デッカイ岩があり、淵も深そうな所が何か所も有るそこには、岩魚が居て、アブの数は少なくなりましたがやっぱり居ます。木々は目一杯に腕を伸ばし夏を謳歌し、水はきれいで、流れの水でも美味しくて普通に飲んでいました。
この自然は、我々の次世代へ引き継いでいかなければいけないものと感じます。生命が溢れた地球の未来は、今後どうなるかはわかりませんが人が壊していいものでは無いと感じます。ボヤキ・・・。

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抜け駆けですか

途中でふっと気がつくと明さんがいません。何処にいってしまったのか・・・。
たぶん一人で沢に入って行ったような気がします。数分後、明さんが追い付いて来ました。私たちが釣りに夢中になっているとなにやらザックの中を覗き込んでニヤニヤしています。
明さんが「千葉ちゃんホラー」と40㎝を超える大イワナ取り出しました。
思わず「なんですかそれ」と言葉がでたくらい驚きました。
うらやましい。
そんな光景を横目に皆も気合を入れて釣りに集中しています。またまた、相馬君に良い型のイワナがかかりました。皆で拍手・・・相馬君照れくさそう。笑

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また長淵で天候悪化

そうこうするうちに、風が出てきました。雲も出てきました。
長淵手前のとろ場で、雷を伴う雨になりそうなので、撤退しようと言う事になりました。
山での雷は、それはそれは怖いものです。

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 すぐに全員で竿などを片付けているとポツリポツリと雨が落ちてきました。
栄司さんが「いつも長淵付近で雨だよなぁー」と言って残念そうです。
続いて明さんが「しょうがない撤収」と声をかけ皆、次々と渓をくだりました。
途中まで下ったところで「この辺で昼飯でも食べるか」と燃費の悪い栄司さんが言い出すと明さんが「いや、最後の渡渉点を渡ったところにしよう」と言い更に渓をくだりました。最後の渡渉点を渡って昼飯の準備に取り掛かったとたん土砂降りの雨になりました。
昼飯をあきらめ非常用に持ってきたパンをくばってパクつきながら山小屋へと戻ることになりました。いつも感心させられる判断力の成果は、豊かな経験から生まれるのでしょう。頼りになる先輩方です。

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山小屋に戻って宴会

山小屋に戻ると相場さんが、焚き火を起して待っていてくれました。 
今日は、今回参加した全員がそろった日です。宴会も大盛り上がりで、食事が美味い。
今日着いた、3人は眠そうです。今年入会した丹羽さんも寝てないので早々に寝てしまいました。自然は改めて良いものだなと感じます。
人が長い間積み重ねた歴史の大部分は、自然の中で生活していたからでしょうか。

ダムの必要性?

そういえば、北海道の二風谷ダムと言う違法なダムの記事を読みました。建設目的が二転三転する中で強引に建設されたダムだそうです。役所側は、作ることだけが目的だったのでしょう。
ただ、1997年に裁判で違法ダムと判決が出たのですが、すでに出来ている建設物を壊すのは公の利益に反するとの事で、撤去の措置は見送られました。
しかし、その後ダムによる水害が発生しダムの放流と放流する場合の措置に問題がありましたが、役所側は自分の非を認めなかったので住民側が司法の場に訴え、今年9月に住民側勝訴の判決が下されました。
昨年の福島、新潟に甚大な被害をもたらしたのもダムの放流が大きな原因なのではないでしょうか。
山の中の大きな構造物は、何かものすごく違和感があります。但し、飲み水や電気を心配することなく使い生活出来るのもダムがあるおかげでもある事はわかっています。
ただ、これからの日本に作るダムはしっかりと精査して本当に必要なものかどうかを確認する必要があると思います。

今回、14日朝に予定通り明さんと康弘さん、私は帰りましたが、この日、相馬さんに一生忘れられない出来事が起こったようです。
続きは相馬さんが記事を書くでしょう。
そちらをご覧ください。

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