室谷川支流 ムサ沢溯行

懐かしき御神楽の渓へ

御神楽岳を西に流れる室谷川支流ムサ沢

(打出沢)は水源を雨乞峰に発し、上流部はナメ滝の連続で厳しく、下流部は穏やかな清流と全く異なる二つの顔を持つ自然豊かな美しい渓である。今回の遡行は、私の提案で十五年ぶりにムサ沢に入ることとなった。
以前に訪れた時は、5月初旬で寒さと増水に苦戦し、ダメ押しに途中で雪渓に阻まれ、戻って来たと言う苦い思い出がある。今回は言わばリベンジ遡行なのだ。
7月の猛暑の中、逃げるようにクルマに乗り込み東北道~磐越道を走らせ現地へと向かった。遡行メンバーは、私達人見兄弟と新巻、深沢、相馬の若手3名他に川崎のメンバー2名木村、秋山を加えた計7名の大世帯である。

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何でここなの!待ち合わせ

津川ICから室谷方面へ約30分、川崎のメンバーとは、ここで待ち合わせだ。川崎組は前日から前乗りしており、我々に現地情報を伝えていたのだ。情報によると、誰も入渓しておらず先行者はいないと言うことであった。
午前2時室谷洞窟に到着、薄暗い広場にテントが一つ張られていた。辺りは静まり、返りフクロウの鳴き声だけが響き渡っている。しかし、室谷洞窟の前で待ち合わせとは、なんとも気持ちが悪い。そんなことはおかまいなしの二人は、テントの中で爆睡中であった。
二人を起こし、久しぶりの再会に握手で挨拶ムサ沢へと向かった。

室谷洞窟遺跡紹介

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室谷洞窟遺跡は国の重要文化財であり、日本における縄文時代草創期の生活相を知る上で、および早・前期の地域交流を知る上で、極めて貴重な学術資料である。

なんとか無事に到着

走り始めて10分かなり道路が荒れて来た。最近お得意のゲリラ豪雨の影響か、道が崩壊寸前である。私がクルマから降り誘導しながら先へと進んだ。
なんとか無事に到着、早々に仮眠用のテン場を設営し、一同「おやすみ・・・!。」
 2時間程寝ただろうか?辺りはすっかり明るくなっている。川崎組のオヤジ達はさすがに朝が早く、遡行準備にかかっている。若手の新巻、相馬を見ると凄まじいイビキ合戦の真っ最中である。兄貴の栄司が「こいつらぁいいよな~こんなに爆睡できて・・・。」などとブツクサ羨ましがっている。

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自然の力に脱帽

AM5:30支度を整えいざ出発、河原に降りてすぐに二股になる。目的のムサ沢は、向かって左、右からは、打出沢が流れ込んでくる。迷わづ左へ進んで行くと何だか水量が異常に少ない、「これでは釣りは困難だな!」と誰もがそう感じた。私も「こんなはずでは」と不安になった。さらに進んでいくと大規模な山崩れの光景が眼に飛び込んできた。大水で崩れたのかそれとも震災の影響なのか?それにしても凄まじい破壊力だ!自然の力というものには何時も、ただただ驚かされるばかりだ。

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癒しの聖域

こんな調子で釣りになるのであろうか?また、イワナは生きてるのか!ますます不安が大きく成り、皆動揺を隠せない。
 歩き始めて30分、渓に木漏れ日が広がり美しい渓相になって来た。辺りはヒンヤリした空気につつまれ、川の音が心地よい聖域になっている。今私たちは緑豊かな大自然の中、仕事を忘れのんびり釣りをしているのだ!渓に来ているというだけで不思議と不安な気持ちが消えうせていく。「やっぱり溪はいい!」

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不安を打ち消す1尾

 澄んだ空気を体全体で受け止めながら先えと進んでいく。「そろそろ竿を出していきますか!」の声に待ってましたとばかりに若手の釣りキチ、相馬が反応、一目散にポイントへ走る。普段、穏やかで無口な奴だが釣りとなると人が変わる。一同、相馬を見守る。
すると、相馬が浅瀬の岩影に上流から餌を投入!またまた、全員が息を呑んで見守る。
下流へとゆっくり糸が流れていく「とッ止まった!」相馬が合わせる・・・。
ニッコリと微笑みながらイワナを手に相馬が振り返った。
全員で拍手、綺麗なイワナであった。

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滝壺の主とご対面

L字に曲がったゴルジュ帯を抜けると、前方に右岸から降り注ぐ高さ4mの滝が見えてきた。両側が花崗岩の壁になっているせいか、周囲に響き渡る滝の音が豪快である。
私は、相馬に竿を借り滝壺へと餌を送り込んだ。すると瞬時に反応が来た、「来た来た来た!」と一同ざわめく、竿先が絞られ糸がピーンと一直線に滝壺へ。すかさず合わせる。おぉーといい手ごたえだ!間違えなく掛かったと実感。ギュンギュン下流へと走って行く、肘を脇に付け竿を立てる。動きが止まった。すると水面に緑かかった綺麗な魚体が浮いてきた。なかなかの魚体だった。
1年ぶりの手ごたえにすっかり満足した私は、写真撮影後そっとイワナを水の中へ戻してやった。

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変わりゆく現状に立ちすくむ

先に進んでいくと少しづつ渓相が変わり、滑滝が多く顔を見せるようになってきた。
 次々と大物が出そうなポイントが現れ、順番で釣りを楽しむことにした。しかし、釣れない!どうやらイワナくんは留守のようだ。上流に向かえば向かうほど極端に魚影が薄くなる。
滑滝が多くなる為、イワナの身を隠す場所がなくなることが原因なのだろうか?それとも悪水でも流れ出ているのだろうか?さっぱり原因が分からない。
 十五年前を振り返ると、こんな状況ではなかったのだがと思いがこみあげる。月日が経つうちに環境が変わってしまったのだろうか・・・?呆然

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次々に現る絶景に思わず笑顔

先を行く栄司(兄貴)が立ち止まり「おぉーこいつは、大きいなー」と嬉しそうに何かを見ている。私達も目線の先を追う、そこには、緑色に染まった木々の中に巨大な石がよこたわっていたのだ。普通の石なら角が洗われ丸くなっているのだがこいつは、石切り場で切り出したかのような巨岩であった。珍しいので石の上に並び皆で記念撮影した。ここで休憩を入れることにした。それぞれがいっぷくしたり水分を補給したりしている。今度は、新巻が「いゃーすげーすぅ、何すかあの岩盤!」大きな声を上げ右岸にそびえる山肌を指差している。またまた驚き、巨大な石の先には、岩盤の壁がそびえ立つ景色がでてきたのである。さらに左岸前方には、山の稜線が見えてきた。目的地はもうすぐか!

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お前ら水泳部か!

先行者の足が止まった、前方に両側が岩盤で覆われた渕が顔を出している。「こりゃー泳がなきゃ駄目だな!」と言っていた栄司がいきなり「ドブン・・・バシャンバシャン気持ちいいー」一同唖然。しかし、本当に気持ち良さそうである。それを見ていたメンバーが次々に飛び込む、まさにプール状態であった。
 しばらくして長老の木村さんがおもむろに立ち上がりこれまた「ドブン・・・!スイスイスイ」深沢が「うっ上手い!木村さん泳ぎ上手いすねー」と叫ぶ。そばにいた栄司が「木村さん元水泳の選手だったんだよ」

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最高の1杯

 歩き始めて5時間半、お腹も空いてきた、「昼飯にしましょう」
昼飯の準備に取り掛かる前にとりあえずビールで乾杯!「うめーぇ!」メンバーの声が渓にこだまするこのひと時がやめられない。今回の昼飯のメニューは冷しラーメンだ。少々お湯を沸かすのに時間がかかったもののすぐにできあがった。これもまた「美味い美味い」で一気にたいらげた。その後、一気に眠気が襲ってきた。しばらく一同無言になっていた。
 気がつくと酒の弱い相馬は石に横たわり高いびきでお昼寝タイムであった。

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童心に還り水遊び

 昼飯の後は、それぞれ1時間ほど自由行動である。山の中とは言え気温は結構高い。水が気持ちいいのだ!滝スベリをしたり、飛び込んだり、泳いだりとそれぞれが童心に還ってはしゃいでいる。なかには、水に浸かりながら寝ているやつまでいる。
 水量の少ない条件だからこそ安心してそれぞれが遊びに没頭できたのであろう。
先ほどまで寝ていた相馬が起きだし、私のところに駆け寄って来た「良い所ですネ!連れてきて頂いてよかったです」とほほ笑んでくれた。私は、嬉しくなり、「これからもいろんな場所に行こうぜ」と声を掛けた。相馬は「ハイ!お願いします」と元気いっぱいであった。それから、しばらくたって時計を見る「あぁーまずい、もう少しで3時になる」1時間くらいオーバーしてしまった。あまりの気持ちよさに時間を忘れ、目的の魚止め確認に行く時間がなくなってしまった。今日は魚止め行きは断念し、今夜泊まる場所を探すこととした。

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待ちに待った宴会

 仕方がない「早めに、宴会をはじめてマッタリしましょう。」
テン場を探すことになったもののテン場が無い全員分かれてテン場を探す。
すると先行していた、栄司が「この石の上でいいよ、天気も安定しているからここにしましょう。」と言い見てみると、そこは、10畳ほどもある平らな岩盤の上であった。新巻が「この石の上、暖かくって気持ちいいですね。」と言って喜んでいた。
薪を集める者、夕飯の準備をする者それぞれの役割を迅速にこなし、宴会へと突入した。
 まずは、イワナの天ぷらをツマミに酒を酌み交わし、おのおのの釣り談義に花が咲く。
そうこうしているうちに辺りは、すっかり暗くなり特性ランタンに火が灯された。またこれが好いロウソクの仄かな灯りの中、イワナの焼き骨から出汁をとった骨酒をいただく。
なんて、贅沢なんだ!若手メンバーが吠える「骨酒うまーいす!」
最後の締めのチキンカレーもまた、絶品、お腹と心が満たされ満点の星空の中、一人、また一人と床についていった。

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天然岩盤浴との格闘

 私が酔っぱらって床についていると「うんー」何だか寝苦しい、少し熟睡したもののすぐに起きてしまった。メンバーを確認すると、相馬以外が全員起きていた。皆、口を揃えて「熱くって眠れない、下の方からジンジンしてくるよ」と異変に気づいていたのである。まさに岩盤浴状態であった。結局朝方6時頃までつづき相馬を除く全員が寝不足状態になった珍事件である。
 真夏の太陽光のすごさを思い知らされた出来事であった。
「それにしても、熱かった!」全員苦笑い

若手の成長

新巻、深沢、相馬、今回参加できなかった佐藤、彼ら若手の成長は著しく、何でも柔軟に吸収し、技術と知識が向上していく、更に体力も申し分ない。実に頼もしい若手メンバー達である。あとは、経験を積んでいってほしいと願うだけだ。ちなみに当源流会最多遡行者は栄司(兄貴)の25年で500回を超える遡行実績である。この実績は異常であるが若手メンバーには、楽しい遡行を繰り返し続けてほしい。そんなことを感じられた今回の遡行である。
「素晴らしい一時をありがとう!」と山に渓に感謝し、今回の遡行を終えた

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